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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)650号 判決

原告

加納東平

被告

有限会社カネケン

ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告らは、原告に対し、連帯して金五五九九万四一四八円及び内金五〇九九万四一四八円に対する平成五年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通貨物自動車が道路を横断中の歩行者を跳ねて負傷させた事故に関し、負傷した原告が、右車両の運転者である被告西口源行(以下「被告西口」という。)に対しては民法七〇九条、右車両の保有者である被告有限会社カネケン(以下「被告会社」という。)に対しては、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  次の事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成五年七月一日午後八時ころ

(二) 場所 大阪市西成区北津守二丁目一番二一号先路上(以下「本件現場」という。)

(三) 加害車両 被告西口運転の普通貨物自動車(神戸一一う四六五〇、以下「被告車」という。)

(四) 事故態様 被告車が本件現場の交差点を西から東へ直進中、同交差点東詰め横断歩道を北から南へ横断中の原告を跳ねたもの

2  原告の傷害・後遺障害

原告は、本件事故により脳挫傷等の傷害を受け、平成六年七月一日に症状固定し、自動車保険料率算定会において後遺障害一級三号の認定を受けた。

3  損害のてん補

原告は、本件事故による損害のてん補として、治療費として二九九万三七九一円、損害仮払金として八〇万円、自動車損害賠償責任保険金の後遺障害分として三〇〇〇万円の合計三三七九万三七九一円の支払いを受けた。

二  争点

1  過失・過失相殺

(被告らの主張)

本件事故は、被告西口が本件現場交差点を青信号に従つて東進中、折から飲酒の上、赤信号を無視して同交差点東詰め横断歩道を北から南へ横断していた原告を跳ねたものであり、原告の一方的な過失によるものであるから、被告西口には過失はない。仮に過失があるとしても、原告の過失は九割を下らない。

(原告の主張)

仮に被告西口に対面信号が青であつたとしても、同被告が前方を注視していれば、横断歩道を横断中の原告を早期に発見でき、本件事故を回避できた可能性が高かつたにもかかわらず、同被告は、三一・七メートルに至るまで原告を発見できなかつた前方不注視の過失があることを考慮すれば、原告の過失は四割程度にとどまるというべきである。

2  損害

第三争点に対する判断

一  争点1(過失・過失相殺)

1  前記争いのない事実および証拠(甲二、乙一、二、検乙一ないし一四、被告西口)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件現場は、東西道路と南北道路が交わる信号機のある変形十字型交差点の東詰め横断歩道の上であり、付近の概況は別紙図面のとおりである。東西道路東行車線は、同交差点に至るまでが三車線、同交差点から先が四車線(幅一三・九メートル)のアスフアルトで舗装された平坦な道路であり、最高速度が時速五〇キロメートルに規制されている。東行車両からは、同交差点方向である前方の見通しはよく、夜間でも照明で本件現場付近は明るい。また、本件事故当時、路面は乾燥していた。東西道路東行車両の信号周期は、赤の直進青矢印が五一秒続いた後、青が五五秒、黄が三秒して赤四六秒となるが、南北の歩行者信号は、右車両信号が直進青矢印、青、黄の後、四秒して青となる。

(二) 被告西口は、前照灯をつけた被告車を運転して東西道路東行の第二車線を時速五〇ないし六〇キロメートルで走行し、図面〈1〉で対面信号〈A〉の直進青矢印を見た後、図面〈2〉で対面信号〈B〉が青に変わつたのを確認して本件現場の交差点に進入しようとしたところ、図面〈3〉で前方三一・七メートルの同交差点東詰め横断歩道上を横断中の図面〈ア〉の原告を発見し、ハンドルを右にきつて急ブレーキをかけたが、避け切れず図面〈4〉の自車と図面〈イ〉の原告が衝突した。

2  以上の事実によれば、本件事故の主たる原因は、原告が赤信号を無視して横断歩道を横断したことにあることは明らかであるが、被告西口にも、少なくとも交差点手前約五十数メートル地点の図面〈2〉辺りでは、横断歩道付近の状況は確認できたにもかかわらず、五十数メートル進行した図面〈3〉まで原告を発見できなかつた過失が認められる。そして、双方の過失内容、前記事故態様等を考慮すれば、原告と被告の過失割合は六対四が相当である。

二  争点2(損害)

1  治療費(二九九万三七九一円) 二九九万三七九一円

原告は、本件事故により症状固定までの治療費二九九万三七九一円を要したことが認められる(争いがない。)。

2  入院雑費(主張額五一万二四〇〇円)四七万五八〇〇円

原告は、本件事故により症状固定した平成六年七月一日まで三六六日間入院治療したことが認められるが(甲八)、一日当たりの入院雑費は一三〇〇円とするのが相当であるから、右雑費は四七万五八〇〇円となる。

3  禁治産宣告に関する費用(主張額一〇万一五〇〇円) 一〇万一五〇〇円

原告は、本件事故による脳挫傷等の傷害により痴呆状態となり、平成六年六月二九日、大阪家庭裁判所岸和田支部で禁治産宣告を受け、その鑑定料及び官報公告料として一〇万一五〇〇円を要したことが認められる(甲五、六、一〇の一、二)。

4  休業損害(主張額三七九万六〇〇〇円) 二〇五万四〇〇〇円

原告は、本件事故当時、あいりん地区の建設労働者として日雇いの仕事をし、本件事故前一年間の年収二〇五万四〇〇〇円程度を得ていたことが認められる(甲一三、一四の一、二、一五の一ないし四、乙四)が、本件事故により症状固定日の前日まで一年間休業を余儀なくされたのであるから、休業損害は二〇五万四〇〇〇円となる。

5  入院慰謝料(主張額三〇〇万円) 三〇〇万円

前記した入院期間、原告の受傷内容等に勘案すれば、三〇〇万円が相当である。

6  後遺障害逸失利益(主張額四三七九万〇六五六円) 二三六九万四九四四円

原告は、本件事故により前記のとおり一級三号の後遺障害を残し、一〇〇パーセントの労働能力を喪失したが、本件事故がなければ、前記認定した本件事故前の年収二〇五万四〇〇〇円程度を症状固定した五一歳から就労可能年数である六七歳まで一六年間得られたものと認められるから、ホフマン方式により中間利息を控除して後遺障害逸失利益を算定すると、以下のとおり二三六九万四九四四円となる。

2,054,000×11.536=23,694,944

7  後遺障害慰謝料(主張額二六〇〇万円) 二四〇〇万円

前記した後遺障害の内容、程度等を勘案すれば、二四〇〇万円が相当である。

8  将来の介護費用等(主張額五九六三万九〇七五円) 一八九〇万一八九九円

原告は、症状固定後平成八年七月までの入院費一四四万三一一〇円とその後の介護費用として五八一九万五九六五円(一日当たり一万円)を主張するところ、前記後遺障害の内容、程度等に照らし、右入院費一四四万三一一〇円(食事代を除く)は認められる(甲一九の一ないし四三、一九の四四イ、ロ)がその後の介護費用については、原告が知的機能障害が著明で、認知、思考、判断に際して重大な支障があり、意欲・自発性の低下も明らかで、日常生活においても適宜、指導・介助が必要であるが、身体的機能障害はなく、食事、衣服の脱着、用便等は一人でできること等日常生活の主な動作には介助を特に要しないこと(甲五、八、九、原告後見人)等を勘案すれば、一日当たり三〇〇〇円程度が相当であるから、平均余命二五年までの介護費用を算定すると、以下のとおり一七四五万八七八九円となり、右入院費を加えると一八九〇万一八九九円となる。

3,000×365×15.9441=17,458,789

9  以上合計七五二二万一九三四円となるが、前記した六割の過失相殺をし、既払金三三七九万三七九一円を控除すると、残額が残らないこととなる。

三  以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木信俊)

別紙図面

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